【Story of Builders】ニック・ウォーカー【第17回】

選手紹介

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皆さんこんにちは。

第17回のStory of Buildersはニック・ウォーカー(Nick Walker)選手です。

2020年にプロになり、翌年にはニューヨークプロアーノルドクラシック優勝、そしてミスターオリンピアでは初出場ながら5位になるなど、超新星として2021年は暴れ回りました。

アマチュア時代からSNSでは有名で、当時から複数のスポンサーが彼の選手活動を支援しており、アマチュアの晩年では、プロになるのは時間の問題だと言われていました。

しかし、彼の人生を掘り下げてみると、実は2012年から選手活動を始めており、プロになるまでには約9年もの歳月を要していました。

そして、筋トレを始めた背景には過去に経験したトラウマが関係していました。

 

目次

基本プロフィール

身長:約170cm

体重:約111kg(大会時)

国籍:アメリカ合衆国

生年月日:1994年8月3日

 

生まれ~ボディビルに出会うまで

ニック坊やは1994年8月3日、アメリカのニュージャージー州で誕生しました。

家族は特別裕福でもなく、貧しくもない平均的な経済力で、兄と両親の4人で生活していました。

両親は自分たちの身を犠牲にしてでも、兄やニックのやりたいことを優先的にやらせくれ、常に彼ら将来を前向きに応援してくれていました。

 

子供のころから体を動かすことが好きで、小学生になるころには野球サッカーアメリカンフットボールのクラブに入りました。

どのスポーツも上達するのが早く、ニックの運動神経は目を見張るものがありました。

しかし、3つともチームスポーツです。

自分がどれだけ上達しても、他のチームメイトが上達しなければチームは勝利することができません。

人一倍負けず嫌いだったニックは、負けるたびに興味が薄れていき、最終的にはどのスポーツも早い段階で辞めることにしました。

 

そんな彼にトラウマになる出来事が降りかかりました。

それはニックがまだ12歳のことです。

当時仲良くしていた美術の先生から急に襲われ、性的暴力を振るわれてしまったのです。

若く、力もなかったニックは成す術もなく、それに抵抗できませんでした。

その結果、彼はその経験がトラウマになってしまい、ふさぎ込んでしまうようになりました。

多感な思春期だったため、どこか恥ずかしさがあり、家族や友達にも打ち明けることができず、一人で思い悩んでいるうちに、少しずつ周りから孤立していきました。

信頼している人たちにもその辛い経験を打ち明かせず、一緒にいても心が落ち着かず、誰かといてもずっと孤独感を感じていました。

 

時には自分で自分の存在をこの世から消し去ろうと考えたこともありました。

 

それほど彼は精神的に追い詰められていたのです。

しかし、そういった孤独感を紛らわせることができた時間がありました。

それが筋トレをしている時間でした。

元々彼の父親は大会に出るほど筋トレに熱中しており、兄もその影響で筋トレをしていたため、ニックが筋トレを始めるのは必然でした。

トレーニングをしている間は本当に楽しく、トラウマのフラストレーションを吐き出せる唯一の場所になっていました。

ただ、一日中トレーニングをできるわけではありません。

ジムを出てからは、またトラウマが思い返され、心の痛みが襲ってきます。

その痛みを和らげるために、ニックは家に着いてからは隠れて薬やアルコールを摂取し、朝になるのを1人で待っていました。

結局彼はこういった生活を16歳まで続けることになります。

カミングアウトするまではずっと一人で孤独感にさいなまれる、彼にとってはかなりつらい時期でした。

 

しかし、負の感情をぶつけ続けたニックの体は日に日に進化していました。

(当時17歳のニック)

卒業する時には体重が104kgまで増えていました。

素晴らしい遺伝子と、血のにじむような努力が実った結果でした。

ニックは高校を卒業する時点で大学に進学することは毛頭考えていませんでした。

 

「俺はボディビルダーとして稼ぐ」

 

それが人生の大きな軸になることをすでに自覚していたのです。

小学生の頃は何となく警察官になりたいとも思っていましたが、筋トレと出会い、彼の人生は大きく変わりました。

 

彼は当時地元の個人経営の“EXTREAM GYM”というジムに通っていました。

高校卒業前にそのジムのオーナーから

「だいぶ筋肉ついてきたから大会に出てみたらどう?」

と勧められました。

いつかは出ようと思っていましたが、高校卒業という大きな区切りにぴったりだと思い、卒業から約2か月後に控えていたNPC Gold’s Classicに出場することを決意しました。

しかし、減量期間はたったの2か月しかありません。

彼は1か月に16kgペースで減量を進め、なんと大会当日には104kgあった体重が72kgまで減っていました。

減量期間は当然PFCバランスが取れている食事を食べる必要がありますが、食事は母親が用意してくれていました。

ただ、ニックはかなり神経質で几帳面な性格のため、母親がちゃんとリクエスト通りに料理してくれているのか後ろから観察するほどでした。

もし、鶏肉を焼いていたヘラでそのまま牛肉を焼こうとすると

「お願いだからちゃんと洗って!じゃないとPFCバランスが計画通りにならない!」

と止めに入るほどでした笑

 

そんなこんなで大会当日を迎えました。

こちらが大会当日の彼の体です。

体にエネルギーが感じられず、増量期にはあれだけあった筋肉も、かなり削ぎ落とされているのが見て取れます。

しかし、彼にとってこの減量期間は本当に楽しいものでした。

今まで脂肪によって覆われていた筋肉が見え、自分の本当の実力を知ることができるいい経験になりました。

また、ステージ上では自分に拍手が送られ、今までの努力の過程が認められた気持ちになり、少しだけ自分に自信を持つことができました。

そこから、自分の改善点を見つけ、さらにもっと成長した体で大会に出ることを目標にしました。

 

アマチュア時代の活躍

以下がNPC Gold’s Classic以降の彼の主な成績です。(階級略)

2013 イースタンUSAチャンピオンシップス  7位
2013 イースタンUSAチャンピオンシップス 1位(Teen)
2013 イーストコースト・チャンピオンシップス 3位
2013 イースタンUSAチャンピオンシップス 1位(Teen)
2014 ジュニアナショナルズ 2位
2015 北東サマークラシック 1位
2015 USAチャンピオンシップス 8位
2016 USAチャンピオンシップス 2位
2016 サウスジャージー・チャンピオンシップス 1位
2017 ナショナルチャンピオンシップス 6位
2017 北米チャンピオンシップス 6位
2018 USAチャンピオンシップス 3位
2018 ナショナルチャンピオンシップス 6位
2018 カリビアングランプリ 3位
2019 サウスジャージー・チャンピオンシップス 1位
2019 USAチャンピオンシップス 2位
2020 ノースアメリカン・チャンピオンシップス 1位

 

ご覧の通り、毎回勝ち続けていたわけではなく、優勝した回数よりも負けた回数の方が多いです。

他の今まで紹介してきたIFBB PROはアマチュア時代から頭一つ抜けた活躍をしていた選手が多いですが、ニックは決して順風満帆なキャリアではありませんでした。

時には満足いくような体で大会に出られず、母親から

「今日の体は控えめに言ってクソだったわ」

と言われるようなこともありました。

あの優しい母親が言うほどなので相当だったのでしょう、、、。

 

もちろんお金もなかったため、ボディビルダーとしてのキャリアを歩み始めた数年間は介護施設のキッチンで働いていました。

キッチンはとても暑く、汗をかける環境だったので減量期間はとてもありがたかったそうです笑

とは言えまだまだ駆け出しで、ボディビルダーとして稼げていなかったので周りからバカにされることもありました。

 

それでもなぜ選手活動を続けてこられたのか。

それは「IFBB PROになる」という明確なビジョンがあったからでした。

 

そのビジョンを現実化するために、色々なモノを犠牲にしてきました。

周りの人たちから

「若いんだから、もっと色々楽しいことをやったほうがいいよ!」

と言われることもありました。

しかしそういったことを言われる度にニックはこう返していました。

 

「ボディビルダーは長寿ではないってことを分かっている。だから、命が尽きるその時までボディビルダーとして本気で生きたいと思っている。」

 

後悔がない人生にするために、彼は毎日を懸命にボディビルダーとして生き続けていました。

学生時代に死と直面した経験を持つニックだからこそ、生きる意味の大切さを誰よりも痛感していたのです。

そのように本気で生きているニックの姿に共感した人たちが、インスタグラムを中心とした彼のSNSをフォローし始め、いつの間にか彼は大きな影響力を持つアマチュア選手になっていました。

その影響力に目を付けた企業が次々にスポンサーに就き、アマチュア時代後期には4社ものスポンサー企業がいました。

 

そしてキャリアを積み重ねて実に9年。ついにその時が来ました。

ニックは2020年に開催されたNPC North American Championshipsに出場しました。

この大会は2017年にも出場しており、その時は8位という悔しい結果に終わりました。

 

当時はアレが大流行していたさなかであったため、会場は特設のテントでした。

大会を一刻も早く終わらせる必要があり、プレジャッジ、フリーポーズ、決勝審査まで大会は淡々と進められていきました。

 

ニックの筋肉量は他を圧倒していました。

 

見事に彼はその大会でオーバーオール優勝を果たし、念願のIFBB PROカードを獲得したのです。

気付けば辛かったトラウマを克服し、彼は自分に自信が持てるようになっていました。

ニックに自分に自信を持つこと、そして自分を愛することを教えてくれたのがボディビルだったのです。

そしてここから、プロになったニックの快進撃が始まりました。

 

 

 

IFBB PROとしての活躍

ニックがIFBB PROになったというニュースは、ボディビル業界で一躍話題になりました。

 

「ついに最強のアマチュアがIFBB PROになったぞ!」

「すでにトッププロと同じ位の筋肉量があるんじゃないか!?」

「プロのステージで彼を見るのが楽しみすぎて待てない!」

 

ボディビル業界は誰もがワクワクしていました。

そんな中、ニックが「一ヶ月後のシカゴプロに出場する」という重大発表をしました。

早くも、プロデビューをするという宣言にファンたちは胸を躍らせていました。

 

そして、1か月後。

ニックは宣言通りシカゴプロに出場しました。

結果は4位でした。

本来デビュー戦で4位になるということ、ひいてはファーストコールに呼ばれることは素晴らしいことです。

しかし、ニックは並みの選手ではありません。

大会直前にも「優勝して、オリンピアに出場する」と高らかに宣言していたため、ファンの期待値は高まっていました。

期待値が高かった分、ファンの多くはその結果に大きく落胆しました。

 

「なんだ、ただのビッグマウスだったか」

「アマチュアで勝ててもIFBB PROでは通用しないんだな」

 

ニック自身もベストの状態で大会に出場できたという自信があっため、とても悔しい思いをしました。

ただ、そういったネガティブな言葉たちがニックの心に火をつけました。

 

「絶対にもっと成長して帰ってくる」

 

固い決意を胸に、ニックはそこから凄まじいほどの努力を続け、次の大会に備えました。

彼が次に選んだ大会は2021年5月に開催されたニューヨークプロでした。

ニューヨークプロはアーノルドクラシックに次ぐ世界で3番目に名誉があるIFBB PROの大会だと言われています。

この大会に出場すると宣言してから、ボディビルファンの間では議論が盛んに行われました。

 

「どうせまた口だけで結果は付いてこないよ」

「オフシーズンでだいぶ体が大きくなった気がするからチャンスはあるかもね」

「また優勝宣言して自分にプレッシャーかけてるけど、大丈夫か?」

 

また、大会前には以前紹介したブレッシング・アウォディブとのビーフ(口喧嘩)がニュースに取り上げられ、ニューヨークプロの注目度はかなり高くなり、全世界がその結果に注目していました。

 

そして、迎えたニューヨークプロ。

大会には2020年のオリンピアで10位に入ったジャスティン・ロドリゲスをはじめ、ツワモノぞろいでした。

しかし、ニックには関係ありませんでした。

 

「ニューヨークプロで優勝して、必ずオリンピアを決める」

 

それが彼が見ていたビジョンであり、それを実現させるためにこの日まで準備を整えてきました。

大会結果は、文句なしの優勝でした。

ビッグマウスだなんだと言われても、自分の見ていたビジョンが間違っていないこと、そして積み上げきたものが正しかったことが証明され、ニックは喜びで満たされました。

 

しかし、ニックの勢いは止まりませんでした。

 

彼は約4か月後に控えていたアーノルドクラシックにも出場することにしたのです。

2021年のアーノルドクラシックはオリンピアの2週間前に開催されたため、コンディションの調整がかなり難しく、リスクがある挑戦でした。

しかし、自分の実力を試したいこと、そしてオリンピアへ向けて勢いをつけるために出場を決めました。

大会前には例のごとく優勝宣言をして、ファンを煽りました。

 

結果は、またしても宣言通りの優勝でした。

この結果を受けて、誰も彼のことを見くびるファンはいなくなりました。

口だけでなく、実力で批判を黙らせてきたのは他の一流選手と全く同じです。

 

ステージ上では、10年間ずっと自身のナンバーワンのファンでいてくれた両親、そしてコーチであり親友のMattとその喜びを分かち合いました。

フリーポーズでは父親が大好きな曲をかけ、優勝賞金である13万ドルをすべて両親にプレゼントしました。

 

その勢いのまま、ニックは2週間後のオリンピアに出場しました。

大会前のインタビューでは

「現在の体ではビッグラミーには勝てない。でも、トップ5は現実的に可能なラインだと思う。」

と冷静に自己分析していました。

 

そして2021年のミスターオリンピアは、その分析通り初出場ながら5位という素晴らしい結果を残しました。

この時点でお分かりだと思いますが、ニックは決してただのビッグマウスではありません。

客観的に自分の実力を分析し、その分析結果を口にしているだけなのです。

そんな彼は今年のオリンピアでの優勝を目指しています。

2021年のオリンピアでのジャッジから以下のようなフィードバックを貰いました。

・大腿四頭筋のボリュームアップ
・さらに密度のある背中
・胸上部の厚みを増やす

そのフィードバックを踏まえ、今年はオリンピアだけを視野に入れて体重を136kgまで増やしました。

現王者であるビッグ・ラミーはコンディションにムラがあります。

彼はビッグラミーがコンディションを外せば、優勝できる可能性は大いにあると分析しています。

ニックの昨年のミスターオリンピアは仕上がり体重111kgでしたが、今年の目標は115kgです。

そして、最終的な目標は

「オリンピアで10勝すること」

と言い切っている彼が、今年その1勝目をあげることができるのか、期待が高まります。

 

彼のふくらはぎについて(番外編)

 

ニックと言えば、その異常に浮き出た血管で知られています。

先日もなぜか彼のことがYahooニュースに取り上げらており、驚きました。

彼のふくらはぎを見て

「ステロイドの影響ではないか?」

と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ニックが言うにはこれは完全に遺伝だとのことです。

彼のふくらはぎはいわゆる下肢静脈瘤というもので、ニックと同じように祖母、母親、兄にもあるそうです。

今のところ、審査に大きな影響は及んでいないと考えられますが、見た目があまりよくないため、改善する余地がありそうですね。

 

終わりに

以上がニック・ウォーカーの人生についての簡単な紹介になります。

彼は12歳の時に経験したトラウマが原因で、筋トレをはじめました。

筋トレがトラウマのフラストレーションの捌け口になり、そこから派生して始めたボディビルがいつしか彼の生きがいになっていました。

彼は言います。

“Most importantly do not give up, I promise there is light at the end of every dark tunnel, it may take others longer to find it, but I promise it’s there.”

「一番大切なのは諦めないこと、どんなに暗いトンネルでも抜けた先には光があるということを俺が約束するよ。人によってはそれを見つけるまでに時間がかかるかもしれない、でも必ずあるから。」

時には道を踏み外し、自己嫌悪に陥る事もありました。

しかし、諦めずに自分の可能性を信じて挑戦し続けた結果、彼はトラウマを克服し、今ではオリンピア優勝を目指せるほどの一流のボディビルダーへ変貌を遂げました。

読者の多くの人が自分ではコントロールできない辛い経験をしてきていると思います。

ただ、そこで一時的に忘れられる悪いモノに頼ってはいけません。

光を求めて、自分が何者であるか求め続けることで、いつか暗いトンネルを抜けられるとニックは証明してくれました。

自分のとなるものを見つけ、それを大切にしましょう。

 

 

引用元:

Bodybuilder Nick Walker Opens Up About Being Molested As a Child – Fitness Volt
Nick Walker is undoubtedly one of the most prominent bodybuilders in the pro bodybuilding circuit. He recently discloses being molested as a child.

ニックのインスタグラム↓
https://www.instagram.com/nick_walker39/?hl=ja

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